慰謝料が認められやすいケース及び認められにくいケース

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不倫が発覚したとき、「慰謝料は本当に認められるのか」と疑問に感じる方は少なくありません。証拠があるつもりでも、状況や関係性によっては請求が認められないケースも存在します。もちろん、すべてが難しいわけではなく、実際には慰謝料が認められやすい共通点もあります。この記事では、慰謝料が認められやすいケースと認められにくいケースの違いをもとに、判断の目安となるポイントを紹介します。

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* 本記事は一般的な法的解説であり、個別事案では結論が異なります。実際の請求や示談交渉を行う場合は、必ず弁護士にご相談ください。

不貞行為が明らかになったとき、被害者の方が真っ先に抱かれる疑問は、たいてい次の二点です。「慰謝料を請求できるのか、そして請求できる場合はいくらになるのか」ということです。感情が激しく揺さぶられる局面であっても、法律は冷静に「証拠」と「事情」とを比較して判断します。

本記事では、実際の相談でよく見られる具体例を交えながら、慰謝料が認められやすいケースと認められにくいケース、それぞれの「判断の目安」を整理いたします。最後に、証拠収集や示談交渉における留意点についても触れ、感情論だけではなく、実務的な視点から現実的な対処法をお示しいたします。

【前提:不貞相手に慰謝料請求できる条件】

不貞相手に慰謝料請求できるのは、「相手が既婚であることを知りながら関係を持った場合」に限られます。相手が婚姻関係を知らなかった第三者に当然に責任を問えるわけではない点に注意が必要です。

1. 慰謝料が認められやすいケース

法律実務の現場で「裁判・示談のどちらでも成功しやすい」と判断されますのは、次のようなケースです。

(1)宿泊を伴う出入りが複数回、日時付きで確認できる

ラブホテルや旅館への出入りが複数回確認でき、かつ写真・映像・予約履歴などから日時が特定できる場合は、説得力の高い証拠となります。 

ただし回数のみで機械的に判断されるわけではなく、他の事情と総合して継続性が認められやすくなるという位置付けです。

(2)当事者による自白(LINEやメール、録音など)

相手方当事者が「会っていた」「ホテルに行った」といった趣旨のメッセージを残している場合は、立証力が高いと評価されます。日時や場所が特定できる文言が含まれていれば、証拠価値はさらに高まります。

(3)同居や婚姻関係が通常に維持されている期間の不貞

同居中で家庭生活が継続している状態での不貞は、夫婦に与える侵害が大きいと見なされ、慰謝料の算定において重視されることが多いです。たとえば、節目行事や育児の共同責任がある時期に行われたケースは、裁判でも高く評価されやすいです。

(4)時系列で「継続性」が示せる証拠が揃っている

定期的なメッセージのやり取り、複数回の宿泊・旅行記録、日時が一致する双方のスケジュールやクレジットカード明細など、関係の継続性を示す証拠が複数ある場合は、単なる偶発的な接触ではないことを説得的に示すことができます。

(5)第三者の目撃証言や専門機関(探偵)の調査報告

探偵による張り込み撮影や、近隣住民・同僚などの目撃証言がある場合は、客観性が補強されます。探偵報告書は裁判で使用されることも多いですが、報告書の作成過程が適切であること(証拠の改ざんや違法な立入りがないこと)も重要です。

2. 慰謝料が認められにくいケース

一方で、感情的には「裏切られた」と思えても、法的に慰謝料請求が認められにくいケースもあります。

(1)肉体関係を示す直接的な証拠がない場合

会食やドライブ、贈り物のやり取りのみでは、法律上の「不貞」(=性的関係の存在)に該当すると認められにくいです。いわゆる「グレーゾーン不倫」は、情緒的には重大であっても、法的には立証が困難であることが多いです。

(2)夫婦関係が既に破綻していた場合

別居が長期にわたっている、あるいは婚姻関係が実質的に解消していたといった事情がある場合は、不貞の侵害性が相対的に低く評価されます。裁判所は「どちらの側の事情が原因で婚姻が破綻していたのか」まで検討するため、被害者側が慰謝料請求において不利になる場合もあります。(夫婦関係の破綻とは、客観的に回復が見込めない程度である必要があります。)

(3)証拠が断片的で時系列がつながらない場合

スクリーンショットに日時がなく、トーク履歴が抜けていたり、撮影データの改ざんを疑われるような場合は、証拠能力が低下します。日時や場所が明らかでない単発の証拠だけでは、法的立証は難しくなります。

(4)一度きりの接触で説明がつくような事情がある場合

たとえば、業務上の付き合いで会った、偶然居合わせただけ、といった合理的な説明が成り立つ場合は、単独の出入り記録であっても不貞の認定が否定されることがあります。

3. 実例から学ぶポイント

不貞と評価されやすい例 

  • 複数回の宿泊出入り 

  • 日時を特定できるメッセージ 

  • 関係の継続を示す客観資料 

これらが重なると、不貞と評価されやすい傾向があります。

立証が難しい例

  • 曖昧なメッセージのみ 

  • 宿泊が1回のみで前後関係が不明 

  • 長期別居後の接触 

一般に立証が難しくなる傾向があります。

この違いは、単に証拠の多さだけではなく、「証拠が関係性の継続性をどのように示すか」にかかっています。裁判では時系列に沿って因果関係が評価されるため、日時と継続性を特定することが重要になります。

4. 慰謝料の金額はどう決まるか

慰謝料額は一律ではなく、以下の事情を総合して判断されます。  

  • 被害者側の被害の程度(婚姻期間、共同生活の有無、子どもの有無等)
  • 不倫の態様(継続性・悪質性・主導性の有無)
  • 加害者側の反省の程度・謝罪の有無
  • 経済事情(加害者の支払能力等)
  • 証拠の明確さ(立証の容易さ)

したがって、裁判例には幅があり、ここで挙げた事情以外が考慮される場合もあります。金額は裁判所の判断によって最終決定されます。

5. 証拠収集の実務ポイント

被害者が感情的になってやりがちな行為の中には、逆に不利になるものもあります。証拠は、安全かつ法的に有効な形で確実に残すことが重要です。

やってよいこと

  • LINEやメール等のトーク履歴については、スクリーンショットだけでなく、可能であればトーク履歴の保存機能や印刷を利用し、日時を明確にしておくことが望ましいです。

  • ホテルや旅館の予約確認メール、クレジットカード明細、交通系ICカードの履歴(乗車記録)など、第三者による記録は確実に保存しておく必要があります。

  • 目撃者がいる場合には、氏名・連絡先を確認し、可能であれば簡単な陳述を依頼しておくことが有用です。

  • スマートフォン内のデータは削除せず、バックアップを取得してください。ただし、相手方の端末に不正アクセスするような行為は違法となりますので、絶対に行ってはいけません。

やってはいけないこと

  • 相手方のスマートフォンに無断でアクセス・閲覧する行為や、パスワードを推定してログインする行為は、違法となり得ます。

  • 証拠の改ざん(メッセージの加工や写真の編集など)を行うと、証拠としての信頼性を一瞬で失うことになります。

  • 過度に感情的なSNSへの投稿は、名誉毀損等の法的問題を引き起こすリスクがあります。

証拠収集の段階から弁護士や探偵に相談することで、法的に有効な形での保存方法や必要な手続について適切な助言を受けることができます。

6. 示談交渉で必ず確認すべき項目

示談は当事者同士で合意を形成する手段ですが、合意内容は必ず書面化する必要があります。示談書に記載すべき代表的な条項は、以下のとおりです。

  • 慰謝料の金額と支払方法・期限(分割の場合は分割契約の詳細)

  • 支払が完了した場合の「債権放棄」条項(以後請求しない旨)

  • 守秘義務(SNS含む)と違反時の違約金条項

  • 接触禁止・連絡禁止の範囲(面会、電話、SNS等)

  • 将来の追加請求の有無(通常は放棄条項を入れる)

  • 示談が無効となる事情の定義(虚偽の申告があった場合等)

  • 弁護士費用や調査費用の負担条項(必要に応じて)

示談書は一度締結すると取り消しが困難であるため、内容については弁護士による確認を受けることを強く推奨いたします。

しかし、示談書の作成や示談交渉の代理は弁護士の業務であり、探偵が行うことはできません。必ず弁護士に依頼してください。

7. 精神的被害への対処と実務的助言

慰謝料は被害の一部を補填するにすぎません。精神的ダメージや日常生活の混乱に対しては、法律手続と並行して、次のような支援を検討することが望ましいです。

  • カウンセリングの受診:感情整理や今後の生活設計に有益です。医師の診断書が作成された場合は、被害の程度を補強する資料となる可能性があります。

  • 家族・友人のサポート:孤立は判断を誤らせる要因となるため、信頼できる周囲の人へ相談することが有効です。

  • 専門家(弁護士・探偵)への早期相談:証拠保全や手続の進め方について、適切な助言を得ることができます。

8. まとめ

不倫は深刻な感情的裏切りであり、被害者の苦痛は計り知れないものです。しかし、法的救済を目指す場合に感情のまま行動することは得策ではありません。重要なのは、「何を」「いつ」「どのように」記録し、第三者に説明可能な形で示すかという点です。証拠と事情を適切に整理できれば、示談でも裁判でも、慰謝料が認められる可能性は十分に開けます。

最後に一言申し上げます。被害にあわれた方は、一人で抱え込まず、まずは専門家に相談していただきたいです。法的な見通しを冷静に評価したうえで、ご自身にとって最も納得できる形で解決を図ることが重要です。

弁護士 黒田充宏
弁護士法人i本部東大阪法律事務所

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